第5章 珈琲*スモーカー
「ふぇ…っ」
「…泣かれるとは思わなかった。すまねぇ」
「謝んなバカ…自分でも想定外過ぎて困ってるのに」
これ以上歪んだ顔は見せたくなかったので、スモーカーの胸に顔を埋めると、優しく抱き締められた。
「お前のさっきの溜め息は、おれが待たせすぎた証拠だ。そうだろ?」
あの溜め息を聞かれていたのか。
「意味がわかんな…ヒック」
「お前はおれをどう思ってんだ?」
唐突に聞かれて、素直に口が滑った。
「好きって思って…ヒック…あれ?」
「ほらな。伝えるのが遅くなって悪かった」
スモーカーは一層強く私を抱きしめる。
意味がやっとわかった。
変な心配しなくても、スモーカーは前から私の事を見ていてくれた。同様に、私もスモーカーしか見ていなかった。
ただ、それだけ。
その時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。
「続きは夜でいいか?」
「続きって…わっ‼︎」
スモーカーは私をそのまま抱き上げた。
「鍛錬場に行くが、このまま一緒に行くか?」
「鍛錬場には顔を出す…けど降ろせ‼︎」
仕方ねぇな、とスモーカーは私を降ろした。
訓練用の剣を持ち、行こう、と言うとスモーカーは腰を屈めて私の唇と自分の唇を合わせた。
「んっ!」
「…ん」
スモーカーの鼻にかかった声混じりの吐息が心臓を跳ねあがらせた。
「行くぞ」
意地悪そうな、楽しそうな笑みを浮かべたスモーカーが歩き始める。
ただされるがままの自分にモヤモヤし、何故か今まで以上にかっこよく見えるスモーカーに悶々し、ブンブンと雑念を払うように頭を振ってから後を追った。