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恋愛短編集

第12章 The Leash of Smoke



朝の光は、暴力的で無機質だった。
遮光カーテンの隙間から差し込む光の筋が、
埃を反射させている。

ナツキは重い瞼を持ち上げ、
数秒間、
自分がどこにいるのかを確かめるように天井を凝視した。

深く、泥のように眠った感覚がある。
耳鳴りは止んでいた。

代わりに、心臓の奥がひどく静かで、
それがかえって落ち着かない。

「……アズサ?」

掠れた声で名を呼び、隣に手を伸ばす。
けれど、指先が触れたのは、
体温の失せたシーツの感触だけだった。
 
ワンルームの狭い視界の中に、彼女の姿はない。

彼は舌打ちをひとつして、ベッドの端に腰を下ろした。

昨夜、あんなに必死に二の腕を掴んだのに。
逃げんなよと、喉の奥を震わせてまで繋ぎ止めたはずなのに。
 
サイドテーブルに置かれた昨夜の残りの箱から、煙草を1本。
火をつけ、一口だけ深く吸い込んだ。
肺に行き渡ったのか、よく分からないまま煙を吐いた。

二口目を身体は求めてない。

指の間に挟んだまま、じっとそれを見つめるだけ。
 
先端から、細い糸のような煙が真っ直ぐに立ち昇る。
空気の揺らぎに合わせて、煙は頼りなく形を変え、天井に届く前に消えていく。
 
吸われることのない煙草は、自分の命を削るように燃え進んでゆく。
長く伸びた灰が、限界を迎え、微かな音を立てて床に落ちた。

それを拾おうとも、払おうともしない。

煙が消えれば、
彼女との繋がりまで本当に消えてしまうのではないかと、
そんな馬鹿げた恐怖が胸を焦らしている。

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