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恋愛短編集

第6章 Happy Birthday to me...【ラフ甘男子】


「あ、ちょ、待って!」
「なんですか?」
「そんな、豪快にいったら……」
私の制止も虚しく、彼が一口分を掬い取ったことで、ケーキの美しいバランスは一瞬で崩れた。

私も負けじとフォークを伸ばす。
泥酔した男女2人が、狭いローテーブルを挟んで、ひとつのホールケーキをフォークだけで突っつき合う。
お互いのフォークがぶつかり、イチゴが転がり、綺麗なデコレーションはあっという間に見るも無惨な姿になっていった。

「あーあ……」
私はぐちゃぐちゃになったケーキの残骸を見て、小さく息を吐いた。
 
「あんなに綺麗なケーキだったのに。勿体無いことしちゃったな」
あのお店のパティシエさんが、心を込めて作ったはずなのに。
こんな独り者の妬け食い(男連れだけど)に、しかもこんな乱暴な食べ方で消費されるなんて。
私の言葉に、高城は口元にクリームを少しつけたまま、ふっと柔らかく笑った。
 
「勿体無くないですよ」
「え?」
「このケーキは、食べるためにあるんですから。
 作られたままの綺麗な形じゃなくて、こうやって誰かに『美味しい』って思ってもらえれば、それだけでケーキとしては正解なんです」
その言葉が、妙にすとんと胸に落ちた。
 
「だから、美味しいって思って食べてくれれば、それでいいと思いますよ。
 ……お誕生日、おめでとうございます」
まっすぐ私を見て、彼はそう言った。不意打ちの、心からの言葉。
 
私は照れ隠しに、壁にかかった時計を顎で指した。

「……もう、過ぎちゃってるけどね」
時計の針は、とうに午前0時を回っていた。
私の誕生日は、もう終わっている。
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