第1章 キャラメル・ソング
鴨川に沿って歩いて行くことにした。
は何も喋らない。
オレも黙ったまま。
川沿いは、川を渡る風のせいで結構寒い。
夕闇が茜色の空の上に広がり始めた。
ふいに、の手がオレの手に伸びてきた。
ゆっくりと、遠慮がちに手を繋ぐ。
気の利いたことが何も言えない、そのせめてものお詫びにその手をギュッと握りしめる。
の体温。
少しだけ視線が下になる身長。
時々ふと香る香水の匂い。
の話す柔らかい京都弁。
その一つ一つが好きだった。
・・・・・あれ。何で過去形なんだろ。
「東京でまた舞台すんの?」
智 「え?・・・・あぁ、舞台?まぁ言われれば。」
「舞台での智くん、かっこええもんね(笑)」
智 「それ、舞台以外ではかっこよくないみたいに聞こえんだけど(笑)」
「(笑)」
言わなきゃいけない言葉は二人とも分かってるのに、わざとそこには行かないように話してる感じ。
「今日はさすがに、泊まれへんよね。」
智 「・・・・うん。ごめん。」
「なんで謝んの?明日東京に戻るんやもん。やることいっぱいあるんやろ?訊いてみただけやし(苦笑)」
智 「でも、9時くらいまではんとこにいる。」
「ええよ、気ぃ遣わんでも(苦笑)」
智 「気遣ってるんじゃないって。オレがそうしたいの。あかん?」
ぷっとが噴き出した。
「微妙なイントネーションやなぁ(笑)」
今日会ってた中で、やっといつもの笑顔になった。