第6章 言われてみれば、単純で。
「捨てようと思ってるのに捨てれなかったんです。
実家から出るときも、就職で引っ越したときも、なんだか捨てれなくて」
「なんで?」
「何でなんでしょうね。私も最近までわからなかったんです。
ずっと持ってたんです、十数年そのまま」
キョーちゃんはそのボタンを丁寧に一個ずつテーブルに並べていく。
その手が儚い。
なんだか、消え入りそうな手。思わず、その手に自分の手を重ねた。
もう、消えちゃうんでしょ。
だったら最後にもう一度だけ、触れさせてよ。
「キョーちゃんにとってこれはいい思い出。
そう思っていいってこと?」
そうだと言って欲しかった。
俺とあの時、一緒に居た時間がいい思い出だと思っていて欲しかった。
そして今、こう再会できて、一緒に過ごしてきた1年ちょっと。
それが彼女のいい思い出のひとつになってくれれば、と思った。
「思い出?私は今の話をしてるんですけど」
今の話?
正直、言ってる意味がよく分からない。
これは過去のもので、過去の話。
中学時代の楽しかった思い出のひとつとして処理すべき事柄。
そして、この出来事もそうやって処理していって欲しい。
「今ですよ。今、私は此処に居て、丹羽先輩も此処に居ます」
「どういうことか分からないんだけど。
こんなもの出してきて何がしたいの?」
「 私、まだ死なないと思いますよ。
人生の半分も生きてないつもりです」
「どういうこと?」
「これだって、過去じゃなくて。これの延長線上に今があるってことです。
少なくとも、私はそう思って丹羽先輩と一緒に居たし、これからも一緒に居たいと思ってます」
「それは俺の都合のいいように解釈しちゃっていいってこと?」
「多分、そうだと思います。好きとか、そういうのは丹羽先輩に言っても通じそうにないだろうし、私自身もよく分かってないです。でも一緒に居たいということは間違いないです」