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言われてみれば、単純で。

第5章 この崩壊は、突然で。



「ありがとうございます。もう大丈夫です」

キョーちゃんは一頻り泣いてスッキリしたのか顔をあげてそう言った。
まだ目の回りは赤いけど本人が大丈夫と言うなら従うしかない。

そのあとすぐ俺のワイシャツを見て慌てる。

そこにはキョーちゃんの涙と一緒に彼女の化粧の痕跡がしっかりと残っていた。

キョーちゃんは慌てて俺のシャツを脱がせて洗面所の位置を聞いてきた。
オリーブオイルと台所洗剤を混ぜてそれを落とすらしい。
横で見ようと思って壁にもたれ掛かったところで俺は重要なことを思い出した。


パスタ。

規定の9分は過ぎている。

一体何分オーバーしたのだろう。
20分は確実。30分? それ以上か。

いくらちょっと良い目の伸びにくいパスタだとしてもこの時間は茹ですぎだった。
お湯がなくなって焦げてしまったわけではなかったと考えて、最悪の事態は免れたという事にしよう。

キョーちゃんの作ったパスタソースにそれを絡ませて皿に乗せた。
それをカウンターテーブルに持っていくと小さなキョーちゃんがより小さくなってこちらをドアの隙間から覗いていた。


「キョーちゃん。何してんの?」

「洗濯機使いました」

「どーぞ」

「多分シャツは大丈夫です」

「気にしなくて良いよ」

キョーちゃんの側まで言って頭をぐしゃっと撫でてやるも何だかまだ落ち込んでいた。
俺としては少し驚いたけどあんなことも見れて嬉しかったりしてる。
言えない状況であったのでそのままにしてたけれど。

彼女はソファに座り込んだのでそちらにパスタを移動させた。


「煙草、いいですか?」

「どうぞ」

彼女の咥えた煙草に火をつけた。彼女が何回か俺にしてくれたみたいに火をつけた。


「今日の丹羽先輩は一段と優しいですね」

「キョーちゃんにならいつでも優しいよ」

「知ってます」

いつもみたいに否定をしないキョーちゃんは静かに笑った。
俺まで調子狂いそう。

「吐くほど飲みたい気分です」

「そうなったら介抱する」

「ありがとう」

彼女が敬語じゃなかったのは多分これがはじめて。
彼女は隣に座る俺の肩に頭を預けて暫くぼーっとしてその後いつにも増してハイペースでワインを飲み出した。
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