第5章 この崩壊は、突然で。
ふと横を見下ろすとキョーちゃんは静かに俯き気味になって歩いている。
「でもさ、キョーちゃんがいきなりイツキなんて呼び止めるからビックリしたよ」
「ごめんなさい」
「いや。謝ることじゃないよ。ついでにもう一回だけ呼んでみて」
「嫌です」
「ねーキョーちゃん」
「嫌です」
「キョー。呼んでみて」
「お断りします」
キョーちゃんは頑なに拒否した。
俺だってそんな風に呼ばれるのは照れくさいから呼ばれたら呼ばれたで困るんだけど。
これもただ、キョーちゃんへの悪戯のひとつってことで。
平常心を保つためにはこれが一番だと思う。言葉だけでもいいから、と戯けてみせた。
いつも静かだけど、もっと静かになっているキョーちゃんに戸惑ってる。
「キョーちゃんの意地悪」
「どっちがですか。
まああれです。丹羽先輩、飲みましょう」
「なんで?」
「呑みたい気分なんです」
「どっちかの家でいい?」
「いいですよ。うち来ます?」
「いつもキョーちゃんの家の日だから今日はうち来なよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
キョーちゃんは呑みたい気分にさせたのは会社の同期の彼だろう。
いくらか彼を傷付けただろうことを心配しているのだろうか。
何故彼の好意を受け取らなかったかは知らないけど俺にとっては都合のいい話だった。