第20章 牢獄
「それで、アリス嬢はこれからどうするんだい?」
「ブラッディローズを。堕天使を殺すには、十分でしょう?」
「そうかい。でもね、小生は思うのさ。天使なんて悪魔なんて死神なんて神様なんて、いない。そういない。ただ……人間なんて、そのどれでもない代わりにそのどれにでもなれる素質はあるんじゃないのかい? 君のように」
アンダーテイカーの首元に、クライヴはナイフを突き付けていた。アンダーテイカーの瞳は、薄緑色に鈍く光りクライヴの真紅の瞳と目が合った。互いの動きを観察しているみたいで、傍観している側からすれば少し苛立つ。
「アリス嬢、人間であろうことすることも、また大切なことだよ」
「……そうかもしれないわね」
雨音が響き始めた。アリスは冷たいアタッシュケースを手に、外へと出る。クライヴが黒い傘をさして、そっと彼女が濡れないようにと傾けた。
「いかがいたしますか? 姫様」
「そうね……じゃあ、まずは左側に隠れている男に聞いてみようじゃないの?」
瞬時にブラッディローズを取り出し、しっかりと構えると物陰に潜んでいるであろう誰かに向けて、銃口を向けた。
影が揺れ、男はだらしなく口を開いた。
「ああ……見つけた。天使」
男は口から躊躇なく唾液を垂れ流しにしながら、血眼でアリスを見つめた。狂っている。すぐにアリスにはわかる。この男が、正常なのかそうでないのかくらい。
「俺の天使だぁああああッ!!!」
引き金は彼女の細い指により、引かれた。
銃声は、三つあった。