第19章 願望
「シエル……」
「なんだ?」
「ごめん、呼んだだけ」
「……馬鹿」
遠くで音が聞こえてきた。
シエルはアリスの手を握り締めて、呟く。
「……渡したくない」
「……ん?」
「おや、こんなところにいたのですね。坊ちゃん、アリス様」
シエルの言葉を掻き消すように、扉は開かれる。
「シエル、今なんて……っ」
「さて戻るとしようか。ゲームはアリスの勝ちだ、持っていけ」
お菓子をアリスに渡したシエルは、先に部屋の外へと出て行ってしまう。そんな二人の様子を眺めながらセバスチャンはアリスの元へと歩みを進めた。
「アリス様、まだ時間はあります。これから挽回すると致しましょう」
「……はいはい」
――滑稽だ。
セバスチャンが伸ばした手を、アリスは迷いなく取る。繋がった手のぬくもりは、残酷なまでにいつまでも変わらない。だからこそ、愚かだと思えた。触れ合えばいつか、思い出す。あの日々のことも、何もかも。
正しさを自問自答しながら、あの日へと意識が戻っていきそうになる。
ふと、繋いだ手の強さが増す。アリスは顔を上げれば、全てを悟っているかのようにセバスチャンが不敵に笑った。