第19章 願望
「私は、クライヴを騎士に選んだ。それでよかったと思っているし、彼でなければ私はそもそも契約をしなかったかもしれない」
「……もし、セバスチャンがお前を求めたらどうする?」
「え?」
「お前の願いを叶える為に、僕を裏切り契約を望んで来たらどうするんだ? 詳しいことは知らないし、強制して聞こうとも思わないが。お前はあいつと、過去何かあったんだろう」
「例え彼が、そう願ったとしても私は二度と彼を騎士に選んだりしないし、駒に選ぶこともない。それはきっと、私が唯一出来る彼への抵抗だから」
シエルはそっと、彼女に手を差し伸べた。
「シエル……?」
「ずっと、見ていた。どうしてそんな顔をする必要がある……そう決めたのなら、胸を張れ。自分を誇れ。あいつなんかの為に、そんな顔をなんてするな」
「どんな顔してた……?」
「切なくて堪らない。そんな顔をしていたぞ」
「それは最悪かも」
アリスはぐっと彼の手を掴んで、そのまま思い切り自分の方へと引き寄せた。まさかそんなことをされるとは思いもしなかったシエルは、されるがまま椅子から立ち上がる羽目となる。
「踊りましょう? 時間まで」
「……僕は踊りが苦手だぞ」
「あら、いいじゃないそれも。子供が背伸びしてるみたいで」
「小憎たらしいな、まったく」
ひと時の安らぎも、二人にはないのかもしれない。付きまとう陰に、闇に、悪魔という黒で塗り潰された互いに魂。もう普通には戻れない。そんなことは、誰よりも自分が一番よくわかっているはずだ。
ハロウィンの夜。二人きりの空間。