第19章 願望
「いいわ、受けてあげる。暇つぶしよ」
「それまで……少し昔話をしてもいいか」
「……どうぞ」
それを合図に、シエルは一つ深呼吸をするとそっと話し始めた。
「僕がセバスチャンと出会ったのは、血生臭くて暗くて……何もかもが地獄に見えた、そんな場所でだった」
一つ一つ、噛みしめるように。シエルは自らのセバスチャンとの過去を語り始めた。アリスが知る由もない過去を。けれど彼女はその話に耳を傾ける。それさえも暇つぶしのつもりなのか、それとも別の思いがあるのか。
「最低で、最悪で、醜悪で……僕はそれでもあいつの力を求めた。全てを壊したかった、全てを……終わらせたかった」
「シエルはそれで、満足?」
「ああ……。僕はあの地獄の日々から抜け出した。檻の中から、檻の"外"へと。そして、両親を殺した犯人を見つけ出して……この手で、必ず」
「そう……。シエルは、その為にセバスチャンを騎士に選んだのね」
「騎士? ふざけたことを抜かすな。あいつは、ただの駒だ。そんないいもんじゃない」
アリスはくすっと笑う。信頼しているようで、実はそうではない彼らの歪な関係が、何処か自分とクライヴに重なって見えた。