第17章 幻想
「アリス様? このようなところに、どうかなさいましたか?」
「え、ええ……屋敷の薔薇が、私の屋敷にあるものと、同じだったから」
「そういえばそうでしたね。クライヴさんの趣味、でしたね」
「私は赤い薔薇が好きなんだけどね」
「いいじゃないですか、白薔薇の花言葉を知っていますか?」
「知らないわ」
セバスチャンは一輪、白薔薇を手折ると花の部分をアリスの髪へと飾る。パール色の髪と、白い薔薇がまるで融合しているかのように見える。
「ああ、でも、似会いますね。白薔薇。貴女に融け込む、色ですね」
「ただ似ているだけでしょう。それより、ここで何をしているの?」
「はい。客人がこちらにいらした時、薔薇の手入れば甘いといけないでしょう? そこで、整えていた所です」
彼の漆黒と、白い薔薇。シンプルなコントラストの中で、風に吹かれアリスの髪が揺れる。同時に、飾ってあった薔薇の花びらが一枚散った。
「ここは寒いので、室内に戻りましょう」
「もう少し……薔薇を見ていたい」
「いけません。大切なお客様に、風邪を引かれては困ります」
「今日は随分と他人行儀なのね、セバスチャン」
アリスの瞳が、彼を真っ直ぐと移す。雲の隙間から、闇を照らす月が覗き込む。淡い光に照らされた二人は、互いを見つめ合うのだった。