第17章 幻想
「いえ、そんなことはありませんよ。アリス様は、今日は随分と積極的なのですね。私とこうして、のんびり一緒の時間を過ごすなど」
「勘違いしないで、薔薇が見たいから偶然貴方と一緒にいるだけよ。貴方がいなくなっても、私はここにいる」
「……いなくなるわけがないでしょう」
セバスチャンは着ていた上着を脱ぎ、そっとアリスの肩にかける。
「アリス様が、お客様である限り。私はお体を労わりますし、心配します」
「でもそれは、本心なんかじゃない」
「何が言いたいのですか……?」
聞きたかったことなら沢山あった。だからこそ、彼女は彼に会いたいと心の何処かで願っていた。そんな可愛らしい理由だけが、全てではないけれど。
肩にかかった上着をアリスはぎゅっと掴んだ。
「どうして、また私の前に姿を晒したの」
「何の話ですか?」
「とぼけないでっ! 粗悪品だったんでしょ? いらなくなったから捨てたんでしょ!? その癖に、私の前にのこのこと現れるだなんてどうかしてるんじゃないの!?」
「元々は、ただの偶然でした。アリス様」
セバスチャンの手が、彼女の頭を不意に撫でた。
「坊ちゃんの用で偶然再会しただけ。別に、何も思うはずは……なかったんです。なのに」
しなやかな指で、アリスの髪を一束掬い上げると、キスを落とす。