過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第35章 薬
ふと空気の流れが変わり殺気を感じたナナシがそちらへ目だけ動かすと、
丁度リヴァイが蹴りの体勢に入っている所だった。
端から避ける選択肢は無い。
避けてしまえばエルヴィンに薬を飲ませなくなってしまうからだ。
瞬時に蹴りの軌道を読み、
攻撃されるだろう脇腹を筋肉操作によって強化すると
ナナシはその衝撃に耐える為、一層エルヴィンを掴む手に力を籠める。
刹那、予想以上に強い衝撃を受けたナナシは、
エルヴィンごと椅子から転げ落ちたが執念で彼から唇を離さなかった。
内心では『くっそ、めっちゃ脇腹痛い。普通の人間だったら
肋と背骨の粉砕コースだ、殺す気か!?』と悪態を吐いていたが、
それはおくびにも出さない。
「・・・リヴァイの蹴りでも引き剥がせないって凄いわ。
って、あれ?リヴァイ?どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・大木みてぇに固かったんだよ」
ハンジの感嘆の声に反して、蹲って右足を擦っていたリヴァイは
紙が挟めそうなくらい眉間に皺を寄せながら
「化けもんだ・・・」と唸った。
それを見ているだけで溜飲が下がる思いである。
無闇に人を蹴るのは良くないという教訓だ。
まぁ、リヴァイはエルヴィンを守るためにナナシを蹴ったので、
可哀想と思わなくもないが。