第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 124話 お願い
「えっ…と。あの、あのね?背中が寒いの。えと、だから…」
楓はそこまで言って目を伏せ、言いたいのに言葉が、声が出てこないのか悲しそうな顔をしている。
相変わらず熱い自分の顔。なぜだか震えてきた身体に本当に具合が悪くなってしまったのかもと、楓は滔々とそんなことを考えていた。
急に背中、いや身体が暖かくなる。仁が座っている楓の後ろに座り込みふわりと抱きしめたのだ。
(安心する…いいなぁこれ)
望んでいた暖かさと望み以上の力強さ。これが男の子なんだろうとフワフワする心で思う。
「ありがとう」
言わなくても、うまく伝えられなくても察してくれた仁にお礼を言った。
ふと、さっきの慶のメールの追伸を思い浮かべる。
『仁は甘えられるのが大好きだ、絶対。やり過ぎって思うくらい甘えてやれ(笑)』
もう楓は幸せな気持ちでいっぱいなのだが、まだ、甘えたい気持ちもあった。
(やり過ぎって思うくらい、か)
楓はゆっくりと、体重を仁の体に預けた。
寄り掛かってきた楓の肩に顎を乗せ目をつぶり、仁はうっとりするように言う。
「あったけぇ」
「うん…」
寒い冬の中、暖かい、甘い空気に浸って、仁も楓も幸せを噛み締めた。