第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 113話 伴奏者
そして音楽室…
「んじゃさっそく、弾け」
五十嵐は候補の5人を呼び付け、唐突に言う。
「って、誰からだよ」
仁がボソッと言えば全員1歩下がってしまうが、五十嵐は仁の胸倉を掴みピアノのところへ連れていく。
椅子に座らせられた仁は椅子を調節すると、気がつく。
「五十嵐、なに弾けばいいんだよ、課題曲行きなり弾ける程上手くはねぇぞ」
本当はある程度なら弾けるのだが、仁にとっては人に聴かせれる程ではない。
「ん、1番難しい奴」
「はぁ?…クラシックでいいのか?」
「あぁ」
そう言われると仁はこの前ピアノコンサートでやった曲で良いかと鍵盤に手を置く。
クラス中の(男子なのに弾けるんだ)という視線を感じつつ弾きはじめる。
ノクターン
学校の昼下がりの音楽室に似合わない高尚なピアノの音色が流れる。
誰でも耳にした事くらいはある曲を生で聴くとこんなにも違うものかとクラス中が感じ、時折聴こえる装飾音の音が綺麗で聴き入ってしまう。
全て弾くと長いのでメジャーな
ところまでで切って「ふぅ」と1つ息を吐くとクラス中が目を丸くしている。
「霧ケ谷君…凄い」
1人の女子生徒がそういうと新聞紙に火がついたみたいにワッと盛り上がる。
「やべぇな、クラシックって良いんだな」
「カッコイイ~」
「出来すぎてムカつく、手ぇ気持ち悪!良い意味で!」
伴奏候補者達は恐ろしく上がったハードルにたじろいでいる(楓はウットリした顔をしているが)
その青く震える女子生徒達を見かね五十嵐はこっそり仁に耳打ちする。
「おい、もうお前でいいか?女子達あんなだし、雪原以外は。クラスのやつらももう納得するだろ」
そう言われ辺りを見回すと確かに五十嵐が言ったような状況ごある。
(確かにあれじゃ可哀相か…)
なら楓はどうだと考えるが、こんな大勢の前で弾くのは苦手だろうと出かかった言葉をしまい、仕方無し、と頷く。
「わかったよやりますよ」
「よしっ、…っおーい、お前ら、もうめんどいからこいつでいいよな!?いいよね!?」
はーーい。と、
声を揃えて返事をされた
…決定