第19章 小さなすれ違い
脹相が帰ってきてから、数日が経った。
一緒に暮らせるようになった日々は、思っていた以上に幸せだった。
離れていた一か月あまりを取り戻すように、私は毎日を楽しんでいた。
ただし、休む暇はほとんどなかった。
研究を引き受け、任務を引き受け、気づけば一週間、休みなしの予定になっていた。
「……お前、今日も仕事なのか?」
朝、脹相が尋ねた。
「うん! 今日は研究の続きと、午後から任務!」
「……昨日も任務だっただろう」
「まぁ、サポート側だから!」
私は呑気に笑いながら、味噌汁を口に運んだ。
脹相は、箸を持つ手を止めた。
「……休みは?」
「来週かな? 今のところは!」
そう答えると、彼は心配そうに眉を寄せた。
「……無理はするなよ」
「うん、大丈夫!」
もちろん、仕事が忙しいのは事実だった。
けれど、仕事を引き受けている理由は、それだけではない。
一緒に暮らせなかったから、高専にいれば、脹相に会えるかもしれない。
研究室から出たとき、廊下でばったり会えるかもしれない。
任務の報告に行った先で、彼の姿を見つけられるかもしれない。
そんな小さな期待が、私を高専へ向かわせていた。
脹相には、まだ話していない。
ただ、彼は私が毎日楽しそうに帰ってくるのを見て、少し安心しているようだった。
ようやく一緒に暮らせるようになったのだ。
彼女が笑っている。それだけで嬉しい。
……それなのに。
最近、俺は少し困っていた。
彼女に触れたい。
髪を撫でたい。手を握りたい。抱きしめて、できることなら、もう少し長く腕の中にいてほしい。
一か月以上も離れていたせいだろうか。
以前は、どうやって一緒に過ごしていたのだったか。
隣で眠ることも、手を繋ぐことも、当たり前だったはずなのに。今は、彼女がそばにいるだけで、触れたいという気持ちが次々に湧いてくる。
……まったく、どうしたものか。
それでも、彼女は毎日嬉しそうに笑っている。
その姿を見ていると、今のままでも十分幸せなのではないかと思ってしまう。
焦る必要はない。
こうして、また一緒にいられるのだから。
……だが、もう少し触れたい。
その気持ちだけは、どうしても消えてくれなかった。