第1章 この顔も欲しいです
お馴染みのスポーツカーが駐車場で目立ちに目立っている
静かに歩みを進めるジーニストを見上げて、彼女が噛み締めるように感謝を伝えた
「本当に、ありがとうございました・・!」
最後に写真撮ってもいいですか、勇気を振り絞るように声を出した彼女が震える指先を隠すように手を握って
俺の前ではいつもあんなに余裕なのにねぇ、って当たり前か、子供じみた嫉妬の火種に小さく息を吐く
「撮りますよー」
手に持つ画面の中に彼女とジーニストが並ぶ
緊張がありありと浮かぶその表情がまた新鮮で、俺では引き出せないその顔を目に焼き付けた
「めぐさん、もっと肩の力抜いて」
「む、むり・・」
「はは、撮りますよ?」
ばっちりです、連写しときました、彼女にとって途轍もない付加価値がついた端末を華奢なその手に乗せる
何度もお礼を言う彼女に微笑みながら、ジーニストさんが運転席へと乗り込んだ
「次は事務所へ来るといい」
「、え・・!」
「卒業生にはサイドキックとして活躍している者もいる」
その仕事ぶりを見るのも貴重な経験になるだろう、真っ直ぐに向けられた視線に彼女の頬が瞬く間に色付いて
「い、いんですか、ぜ、ぜひ・・!」
思わぬアドリブにぴくりと眉が動くのを制したつもりが、ジーニストさんが意味深に俺を見遣った
「ホークス」
「はい?」
「君は存外分かりやすいな」
静かに笑みを深めたジーニストがゆっくりと窓を閉めて
見た目よりも上品なエンジン音を響かせながら街中へと消えていく
「ホークス、見て・・!」
興奮冷めやらぬ様子の彼女が嬉しそうにスマホを差し出すと、撮ったばかりのツーショットの上でデジタル時計が時を刻んでいた
「設定しちゃった・・」
何はともあれ俺が撮った写真だ、まぁいいとしよう、無理矢理に落とし込んだそれは納得とはほど遠くて自嘲が漏れる
「こんな顔、初めて見ましたよ」
どれだけ雄英へ通っても、どれだけ好きと伝えても
「・・俺も、めぐさんにとって会いたい人になりたい」
「、ホークスに会えるといつも嬉しいよ?」
「・・それじゃ足らん」
この顔も、欲しいです、小さく掠れた声は行き交う車の音に掻き消されて
いつまでも幸せそうに画面を見つめるその横顔を、柔らかな午後の陽が照らしていた