第12章 十八番ですから
ひと段落と呼べるかと問われれば、全く以て呼べやしない、深く息を出し切るように呼吸し立ち上がると執務室の外へのろのろと足を踏み出す
———午前の会議、確か警察のやつですよね?
塚内さん来るなら俺が出ます、急遽の予定変更、そんな事でいちいち驚く私では無い
何かを企んでいる目がきらりと光って、やれやれと資料を手渡したのが数時間前
そろそろ終わる頃だろう、彼の目的はその会議後に違いない
フロアの角にある自販機コーナーに足を運びいつもの缶を押すと、背後で爽やかな声が聞こえた
「おつかれさまです、目良さん」
「三茶さん、・・会議中では」
「その予定だったんですが、塚内さんが交代を」
ほぼ間違いなく会長が出て来るから、そう言って急遽変更したんです、予想通りでしたけど、
明るく笑った三茶さんが自販機のボタンを押した
「お互い、苦労しますね」
「・・ええ」
どちらからともなく苦笑が漏れて、しばしの休息に腰掛ける
迷ったように何度か視線を寄越した彼が小さく呟いた
「・・譲ってくれませんかね、塚内警部に」
あの人普段本当に浮いた話無いんですよ、まるで本人に聞こえてしまうのを恐れるかのように声を顰めた彼が視線を手元の缶に落とす
「ホークスは、他に機会がいくらでもあるかと」
「・・”ホークスには”あるでしょうね」
「と、言うと」
腑に落ちないと言いたげな目が私を捉える、
コーヒーが喉を通ると少しだけ声が出し易くなった
「・・レム睡眠とノンレム睡眠のようなものだ」
「は、い?」
「剛翼を戻してやると持ち掛けられたら」
少しは考えるかもしれませんね、吐き出す息は呆れなのか安堵なのか、正義の名の下に振り回され続けた彼がやっと見つけた深い安らぎであるならば
一度は捨てた名前を、人生を、取り戻し愛するきっかけになるのであれば
「・・身を引けと、塚内警部へ伝えて下さい」
私からのお願いです、深く深く頭を下げると思い切り慌てた三茶さんがあたふたと立ち上がった
「ず、ずるいですよ目良さん!」
「ええ、狡く汚い偽善は公安の十八番ですから」
いくらでも頭を下げましょう、力なく小さく微笑んで再度ボタンを押した自販機、そろそろ彼の様子を見に行かなくては
一礼しエレベーターの前に立った私を、三茶さんは黙ったまま見つめていた