第8章 ショコラ・エピセ
「・・甘いもの食べて笑顔になってほしい、とか」
「うん」
「たまにはゆっくりお風呂に浸かってほしいとか」
真冬でもシャワーで済ませるって言ってたから、いじけるような声色がぽつりぽつりと小さく響いて、彼女が恨めしそうに一瞬俺を見上げた
「・・改めて言葉にするとすごい普通だね、悔しい」
「めぐさん、ありがとう」
気の利いた返しが出てこない、気を緩めると情けなく泣いてしまいそうで
口角はちゃんと上がっているだろうか、ああ、貴女が驚いた顔しとるって事は、俺たぶん上手く笑えてないですね
「贈り物が普通だと、普通のリアクションなんだね」
「いじめんで下さいよ、泣きそうなんですから」
「・・チョコレート、今から食べてくれる?」
お風呂も入ってくれたら嬉しいな、後で洗ってくるから、彼女らしいそのままの言葉はまるで心に種を蒔いていくように温かい
その優しさと穏やかな微笑みを浴びてこれ以上ないほど大きく育ってしまったこの気持ちを、ちゃんと最後まで見届けてくださいね
簡単に振り解かれた腕、当たり前に離れていく温もりが酷く寂しい
貴女からは触れるんでしたっけ、包みを大事に抱えて戻った彼女は躊躇なく俺の腕を引いた
「あーんしてほしか」
「自分で食べてください」
「釣れないなぁ」
ぱくりと口に放り込んだ一粒、スパイスの効いた苦味の後に甘いミルクが広がる
「めちゃくちゃ美味いです、めぐさんもどうぞ」
摘んで差し出すと一瞬で色付いた頬、不本意そうに小さく開いた口にそれをそっと入れると、親指を唇に触れさせた
「おいしい・・!」
すごい、蕩けるね、またそんな風に無防備な顔で笑って、いい加減にして下さいよ
少し反省してもらわんとね、圧をかけるようにじっとその唇を見つめると彼女の視線が徐々に泳ぎ始めた
「このままキスするのがお決まりでしょう?」
「は、え、何言って・・!」
「俺に蕩かされてみません?気持ちいいですよ」
椅子から立ち上がり親指をぺろりと舐めると、思い切り赤面した彼女がドンと俺を押し退けて浴室へと走り去って行った