第7章 埋め合わせは何でも
助手席の扉を開けた彼女の視線がそこに置かれた紙袋を捉えると、またその目が悲しげに潤んだ
「・・紅茶用の角砂糖です」
少しでも喜んで欲しくて、呟いた声に彼女が小さく唇を噛み締める
そっと持ち上げた彼女が優しい手つきでその包みを膝の上に置いた
「・・ありがとう、とっても嬉しい」
「さっきは、すみません」
俺どうかしてました、ちゃんと家まで送りますから、エンジンをかけて空調を調節すると曇ったフロントガラスが少しずつクリアになった
唇を噛んだまま黙っている彼女がゆっくりとシートベルトに手を掛ける
ぱちぱちと何度も繰り返される瞬きが、その困惑と緊張を表していた
「じゃあ、出発します」
「あのね、ホークス、」
少しだけ震えているその声、ちらりと俺を見上げた目が躊躇いに揺れている
よほど怖がらせてしまったに違いない、この車に乗ってくれるのもきっと今日が最後だ
「何でも、言ってください」
「・・お家にお邪魔する前に、コンビニに寄ってほしくて」
泊まれる準備してきてないから色々買いたいの、ひと息に言い切った彼女の耳が暗い車内でも分かるほど赤く染まって、俺は言葉を失った
「え」
「え・・!?」
「え」
かぁっと効果音が出てるんじゃないかと思うほど顔が熱い、そしてそんな俺を見つめる彼女の頬がじわじわと同じ色になっていく
「えっ、あ、もしかして、冗談だっ、た・・?」
ほ、本気にしちゃった、恥ずかしい、思い切り慌てた彼女が蹲るようにように顔を伏せて、先ほどとは違う甘い鼓動で頭が真っ白になる
「寄ります、コンビニ」
「・・っ!」
つい数秒前まで辛くて悲鳴をあげていた心が、手のひらを返すように幸せだと叫んでいる
早まる鼓動も巡らせる思考も、恥ずかしそうに目を伏せるその横顔が全て吹き飛ばしてしまう
「馬鹿みたいです、俺」
「え、?」
「貴女のひと言で、今めちゃくちゃ幸せだ」
眉を下げて漏れ出た苦笑、驚いたように大きく目を開いた彼女が釣られて優しく微笑む
今夜初めて見られたその笑みがじわりと心を温めて、速度を上げたい衝動を抑えながら、俺は緩やかにアクセルを踏み込んだ