第7章 埋め合わせは何でも
クリスマスまでまだ日があると言うのに、大通り沿いの店舗にはそれらしい装飾がちらほらと増えて来ている
稼ぎ時ですもんねぇ、電飾の付いた駅前の街路樹に呟いた声は我ながら酷く乾いていた
アクセルを緩めて入ったロータリー、静かに車を寄せるとナビの画面を注意深く確認して
「心配なんで、無事に終わったら連絡下さい」、電話を切った直後に送信したそのメッセージに既読はまだ付いていない
普段来慣れない地域、彼女がスマホを触らずに帰路に着くとは考えにくい、という事は、
「・・まだその人の家」
呟きながらナビの液晶を指でなぞる、同居人が帰って来るまで、彼女のあの言い方からしておそらく少人数、二人暮らしと考えるのが妥当だろう
「・・とすれば、戸建ての並ぶエリアより」
こっちのマンション群の可能性が高い、
長らく埃を被っていた思考回路、ヴィラン退治さながらの追跡プランに苦笑が漏れる
「絶対に、捕まえますよ」
緩く踏み込んだペダル、音もなく加速していくそれが着実に彼女との距離を縮めていると今は信じるしかない
賑やかな通りから迷いなく脇道に入ると、人気の少ない路地を一つひとつ徐行しながらあたりを見回して
どうせなら公安パトロール中とでも車に貼っておこうか、犯罪抑止力になるかもしれないね、
気を紛らわすようにそんなくだらない事を考えながらゆっくりと車を走らせる
「・・めぐさん、早く会いたいです」
花のように可憐に微笑んだと思ったら、お茶目に周囲を惑わしけらけらと笑っていたり、
人を心配する時には彼女の方が泣き出しそうな顔をしているところも、
そんな彼女の表情全てが
「・・この世で一番、可愛い人だ」
既読の有無を気にしながらひたすら周辺を走らせる、神経を集中させている間に時刻は軽く20時半を過ぎて
大通りとは違い、ぽつりぽつりと規則的に並ぶ街灯だけが静かな住宅街を照らしている
このまま会えない可能性が焦りとともに頭にちらつき始めた時、真横を通ったマンションのエントランスが音もなく開いた