第6章 その扉は開けないで
二人きりのエレベーターが落ちていく、なんとなく気まずい空気におろおろと視線を落とすと、気を遣うように咳払いをした塚内さんがこちらを見て口を開いた
「・・本当に送らなくて大丈夫ですか、」
「え、ええ!それよりあの、」
さっきの、真さんに聞かないで下さいね・・、下を向き小さく呟くと耳がじわりと熱くなって、見上げた彼も同じように赤い顔で俯いている
「・・努力、します」
「努力じゃだめです、聞かないで」
一階に到着したことを知らせる音、広いマンションのエントランスが明るいオレンジ色に照らされている
「薬師さんが居ると分かっていたら」
もう少し早く帰ってました、苦笑した彼が開いた自動ドアを手で押さえて私を優しく促した
「殺風景な部屋だったでしょう」
「いえ、穏やかで落ち着いたお部屋でした」
微笑んで伝えると彼が恥ずかしそうに顔を顰めて、小さく吐かれた溜息が静かに落ちる
いつかのように彼が硝子戸を押すと肌寒い風が頬を撫でて、暖房で火照った身体を冷やした
「・・お店は、決まりましたか」
「ふふ、今三つくらいまで絞れましたよ」
「では、」
その三つ、順番に行きましょう、後ろで聞こえたその声に私は思わず振り向く
真っ直ぐに私を見下ろすその瞳が少しだけ揺れて、離れがたいと語っているように思えたのは勘違いだろうか
「・・聞きませんよ」
「え?」
時折響く控えめな虫の声、持っていたストールを彼がそっと私から取り上げて
まるで宝物を包み込むみたいに、ふわりと優しく私の首元に巻いた
「貴女の口から聞きたいから」
真の個性には頼りません、巻き込まれた髪を塚内さんが丁寧にストールの外側へと出して
妹さんが居るから慣れているのかもしれない、高鳴る胸を誤魔化すように視線を落とすと、かさついた指先が私の首筋をなぞった
「・・っ!」
「失礼」
言葉とは裏腹に全く悪びれない彼が目元を染めて私に微笑みかける
「・・塚内さんが意地悪なの、忘れてました」
「貴女にそう言われたくて、やっています」
「・・っ、」
私のどこか奥にある扉をその真っ直ぐな瞳が見つけ出して
彼の放ついくつもの鍵がそれをこじ開けようと差し込まれるたび、私の胸は甘く落ち着かない音を立てていた