第6章 その扉は開けないで
「あっ、まことさん、目が覚めましたか」
静かに身じろぐ音がして、私は読んでいた本から目線を上げる
深く息を吐いた彼女はゆっくりと身体を起こすと目の焦点を合わせた
「・・めぐ、さん、」
一時間ほど寝ていただろうか、青白かった頬に少し色が差している
干されていたグラスを手に取り水を注ぐとソファのサイドテーブルへとそれを運んだ
「ありがとう・・」
「侵入しちゃいました、すみません」
「いえ、助かりました、・・本当に」
ごくりと水を飲んだ真さんが掛けられた毛布を見遣って、私は慌てて頭を下げる
「勝手にごめんなさい、お部屋から取っちゃいました」
「いえ、全然!ありがとうございます」
壁掛け時計をちらりと見た彼女が、スマホを素早く操作する
先ほどよりもしっかりした足取りで立ち上がると、食器棚からカップを取り出してドリップコーヒーをセットした
「彼氏さん、でしょうか、」
何時頃にお戻りですか、もう一つの部屋に視線を向けた私を見て、真さんが納得したように微笑んだ
「彼氏ならいいんですけどね、」
口煩い兄と二人暮らしなんです、お茶目に舌を出した真さんがドリップにゆっくりとお湯を注ぎ入れる
テーブルに置かれたそれからは、すっきりとしたいい香りがした
「お兄さんでしたか、勝手にドアを開けてしまってすみません」
「とんでもない!」
さっき連絡したので急いで帰って来ると思います、徹夜のこときっとまたガミガミ言われるなぁ、諦めたように溜息を吐いた真さんが机に伏せる
「自分もワーカホリックのくせに、私にばっかり」
「ふふ、素敵なお兄さんですね」
「それはそうなんですけどね」
心配性すぎる所があって、カップを手に握りながら笑い合い、穏やかな時が過ぎていく
仕事のこと、家族のこと、他愛ない話題が優しいグラデーションを描きながら互いを交わらせて
コーヒーもすっかり無くなる頃、顔色の良くなった真さんを見て私はゆっくりと椅子から立ち上がる
交換したばかりの彼女の連絡先から可愛らしいスタンプが届いたその時、がちゃりと玄関の開く音がした