第5章 貴女はそういう人だから
木々が秋風に揺れる、音もなく落ちていく葉が道端に舞い落ちて
フロントガラス越しに暗い空を見上げると煌々と光る月が浮かんでいた
「・・こりゃ何も言えんわ」
ガンッと音を立てて額がハンドルに当たる、溜息とも呻き声とも取れない情けない声が腹の底から出て暗い車内に響いた
駅で見つけた体調不良者、ふらりと蹌踉けたその身体を一生懸命支える彼女の姿が容易に浮かぶ
今頃、横たわるその人の側で数分おきに額に手を当て状況を確認しているのだろう
「・・誰も、悪くない」
「・・わかってる」
「・・・・そういう人やもん」
打ち付けながら気持ちを落ち着かせるようにぶつぶつと呟く、
もしかして俺の日頃の行いが悪いのか、柄にも無くそんな考えを巡らせると思い出したのはげっそりと窶れた目良さんの顔
急に息苦しくなった俺は鮮やかな色のネクタイを乱暴に緩めた
「・・・目良さんに優しくせんと」
彼女は確か〇〇駅の近くだと言っていた、
何時間だって待てる、だから迎えに行かせてほしい、そんな風に申し出たら彼女の罪悪感をさらに強めてしまうだろうか
無理にでも、一瞬でも、会いたいと思うこの気持ちは、俺の独りよがりであることには違いない
先日のバッタリ偶然作戦とはワケが違う、途方もない落胆が胸の中でじりじりと燻って
「・・はぁ、ひどいなぁ」
絶対に聞かせられないそんな言葉が暗闇に溶ける、
俺を優先してほしかった、せめて頼って巻き込んでほしかった、あまりにも利己的で無意味な言葉がだらだらと口から滑り出て、こんなにも自分が嫌になるのは久々だ
助手席の上には小さな包み、ヨーロッパから取り寄せた琥珀色の角砂糖が上品な箱に入っている
貴女を甘やかすのは俺がいい、渡す時にはそんな風に伝えよう、なんて
能天気にクサい台詞を考えていた数時間前の俺に言ってやりたい
恥ずかしげも無くそんな事を言えてしまうから、いつまでも俺は———
「・・どうせ、お子ちゃまなんで」
顔見るまで帰りませんよ、大人げなく呟いた音が自身の耳に届くのを掻き消すように、俺はサイドブレーキを乱暴に下ろした