第5章 貴女はそういう人だから
時間に余裕を持って乗り込んだ上り電車、すれ違う反対側の車両は帰宅する人たちで混み合っているように見える
普段は素通りする駅の到着アナウンスが車内に響くと、地下鉄に乗り換えるために私は紺色のシートから立ち上がった
「何がいいかな、」
先週の彼らしくない様子と声色を思い出す、いつも戯けて弱みなど見せないホークスが珍しく見せてくれた本音を
———俺落ち込んでるんです、
若くして上り詰めたNo.2、そして個性を失ってもなお公安委員会会長として重責を担う彼の気丈さを思う時、
あの明るい笑顔の裏側にどれだけの苦労と忍耐があるのだろうと心配になる自分がいる
私ごときの心配なんて何の意味もないと分かっていても、一緒に居られる時くらいは彼が肩の力を抜けるような、そんな存在で居られたら
「そっか、クリスマスが近いから、?」
やけに充実しているギフトコーナー、クリスマスまではまだ日があるように思えるけれど、デパートの一階はすっかり大切な人への贈り物で賑わっていた
「確か、甘いものは嫌いじゃ無かったはず、」
あとお風呂にもちゃんと浸かって欲しいなぁ、それか暖かい靴下とか?、気になる物をひとつずつ手に取っていくとなんだか敬老の日みたいになってしまって、私は苦笑しながらそっと靴下を売り場に戻した
「・・むずかしいなぁ」
変に気を遣わせても悪いし、数粒入りのチョコレートと入浴剤、無難すぎる?いや女性への贈り物みたい?
そろそろ地下鉄に乗らなくてはと腕時計を確認すると、ちょうどフロアの大きな時計がメロディを奏で始めて私を焦らせた
乗り慣れない地下鉄の改札、ホームを間違えないようにとスマホと駅の表示を交互に見つめる
エスカレーターを降りゆっくりと歩みを進め始めた時、ホームのベンチでうずくまっている一人の女性が視界に入った
「、大丈夫ですか?」
横に腰掛け小さく声をかけると、その女性がゆっくりと顔を上げる
さらりと流れた黒髪、上品なアイシャドウが深いグリーンの瞳を綺麗に彩っている
困ったように彼女が微笑むと、大きなイヤリングがゆらりと揺れた
「はい・・、すみません、大丈夫・・です」
「顔色が悪いですね、お水買ってきましょうか」
「ちょっと、目眩がして・・」