第4章 ゴールデンドロップ
透明なグラス、冷えた水を一気に喉へと流し込む
悶々とする気持ちを洗い流したくて浴びた熱いシャワーは、残念ながら頭をぼんやりさせただけだった
声が聞きたい、沸々と湧き上がる身勝手な想いに髪を拭く手が止まる
壁の時計に目を遣るとすでに22時を回っていて、しっかりと非常識な時刻を表示するそれを睨みつけた
「声が聞きたいです、めぐさん」
送信して数秒、俺は一体何をやってるんだ、あまりにも浅はかな行動に慌てて吹き出しを長押しする
表示された「送信取消」の文字、これを押す前に既読が付くことを心の何処かで願っている自分に苦笑が漏れた
「どうしたの、大丈夫?」
既読が付くのと殆ど同時に受信した彼女らしい返信に、俺は目を見開く
「・・っ、」
恋人でもない俺がこんな事で落ち込んでいると知ったら、彼女は困ったように笑うだろうか、昔の話だよと誤魔化すだろうか、それとも、
一向に定まらない文字、液晶の上で指先を彷徨わせる
やっぱり何でもないです、おやすみなさい
やっとの事で打ち終えたその言葉は、送信直前、突然の着信画面に飲まれて消えた
「ホークス?」
「・・いきなり電話くれるなんて、優しいなぁ」
いつもの通話はもちろん俺から、「かけます」と必ずメッセージで知らせてから発信するようにしている
「こんな時間にすみません」
「全然、ちょうどゆったりしてたところだよ」
「・・めぐさん」
俺落ち込んでるんです、しかもめちゃくちゃカッコ悪い理由で、苦笑して続けると彼女が優しく微笑む気配がした
「ホークスでもそんな日があるんだね」
「結構堪えました」
「・・そっか、とっても頑張ったね」
柔らかな声音が耳に流れ込むと、じわりと心が温かくなって
優しさ故に理由を聞いてくれないなんて、貴女はなんて残酷なんだろう
「俺、まだまだ知らない事があるみたいです」
確かめるのが怖い、彼女が今もあの人を想っているとしたら?
伝え続けているはずの俺の好意に、態と気付かないフリをしているのだとしたら?
回りくどい事は苦手だと嫌悪してきたはずなのに、ブレーキが掛かったように前に進む事ができない
もし拒絶を突きつけられてしまったら、知りたくない核心に触れてしまったら、
俺はきっと、壊れてしまう