第16章 雄英文化祭編
爆豪は彼女の顔を覗き込むように、少しだけ身を屈めた。
「そうやって俺のことで悩んでろ」
「……あなた、本当に性格が悪いわね」
「知ってる」
「褒めていないのだけれど」
「俺は気に入ってるぜ」
「…………」
もう、何を言っても無駄だった。
おもちは再びこめかみを押さえた。
公安で培った観察眼も、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験も、この男の前では役に立たないらしい。
いや、むしろ厄介なのは、自分自身だった。
彼の言葉に呆れながらも、嫌悪感はない。
強引な態度に困惑しながらも、彼の隣を離れたいとは思わない。
そして、あの腕の中の温もりを思い出すと、胸の奥がほんの少しだけ落ち着かなくなる。
「……本当に、困った人」
小さく呟く。
「何か言ったか?」
「いいえ。何も」
おもちは、いつものように艶やかな笑みを浮かべた。
けれど、その笑みの奥にある動揺まで、完全に隠しきることはできなかった。
爆豪はそれを見逃さず、満足そうに目を細める。
――絶対に、逃がす気はねぇ。
そんな決意を胸に秘めた男は、上機嫌のまま彼女の隣を歩いていく。
一方のおもちは、隣にいる男を横目で睨みながら、心の中でそっと結論を出した。
自分はどうやら、とんでもなく厄介な男に気に入られてしまったらしい。
しかも、本人にその自覚があり、なおかつ反省する気も一切ないのだから。
――本当に、頭が痛くなる話だった。