第16章 雄英文化祭編
「爆豪くん、優しいね」
おもちが微笑むと、爆豪の眉間に深い皺が寄った。
「どこがだ、クソが!」
「ふふっ」
「笑ってんじゃねえ!」
いつもの調子で言い合う二人を、エリは不思議そうに見比べていた。
それから、ぱっと笑顔になる。
「爆豪お兄ちゃんも、一緒に行こう?」
「はあ!?」
思いがけない誘いに、爆豪が固まった。
「えっとね、爆豪お兄ちゃんのドラムもすごくかっこよかったの!」
「……っ」
「だから、一緒に行きたい!」
爆豪は、言葉を失った。
おもちが隣で口元を押さえている。
「……おい」
「なあに?」
「笑いこらえてんじゃねえ!」
「ごめんなさい。でも……ふふっ」
結局、彼女は笑ってしまった。
爆豪は盛大に舌打ちをしたものの、エリに向けた視線は思いのほか柔らかかった。
「……チッ。少しだけだからな」
「やったあ!」
エリが嬉しそうに声を上げる。
その小さな手を、おもちが握る。
もう片方の手には、爆豪がぶっきらぼうに差し出した飲み物があった。
「ありがとう、勝己くん」
何気ない一言。
けれど、名前を呼ばれた爆豪の耳が、ほんの少し赤くなる。
「……うるせえ」
前を向いて歩き出す彼の背中を見ながら、おもちは目を細めた。
今日のライブは、きっと忘れられない。
初めて出せた高音も、会場を包んだ歓声も、仲間たちと分かち合った喜びも。
その全部が、彼女の中に残っていくだろう。
そして、きっと。
ステージの上で歌っていたときよりも、今こうして隣で笑い合っている時間のほうが、ずっと長く、彼女の心を温め続けるのかもしれない。
おもちは、エリの小さな手を握り直した。
「さあ、行きましょう」
「うん!」
「……置いてくぞ」
少し先を歩いていた爆豪が振り返る。
その声に、彼女は笑って応えた。
「今行くわ、勝己くん」
文化祭の喧騒の中。
三人の足音が、並んで廊下に響いていた。