第16章 雄英文化祭編
そこには、通形先輩に抱かれたエリがいた。
小さな手を胸の前でぎゅっと握りしめ、目を輝かせながらステージを見つめている。
そして、おもちと目が合った瞬間。
エリは、ぱあっと顔を輝かせた。
満面の笑みだった。
心の底から楽しくて、嬉しくて、たまらない。
そんな感情が、その小さな顔いっぱいに溢れていた。
「おねえちゃーん!!」
音楽にかき消されそうな声で、エリが一生懸命に手を振る。
その笑顔を見た瞬間。
おもちの胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
――ああ。
知崎の影が、消えた。
かつてのエリの表情には、いつも怯えがあった。
何かをするにも、誰かの顔色を窺っていた。笑うことさえ、どこか遠慮がちで、心の底から楽しむことを知らないようだった。
あの小さな身体に刻みつけられた恐怖を、彼女は知っている。
あの場所で、自分が守りたかった少女。
その少女が今、こんなにも楽しそうに笑っている。
誰の顔色も窺わず。
誰かに許しを求めることもなく。
ただ、目の前の出来事を心から楽しんでいる。
「……っ」
胸の奥が、熱くなった。
エリちゃん。
思い切り笑うと、こんなに可愛いんだ。
そんな当たり前のことに、今さら気づいた。
そして、もう一つ。
こんな顔を見せてくれるほど、安心してくれているのだと。
自分が守った小さな命が、こうして笑っている。
それだけで、今まで背負ってきたもののすべてが、少しだけ報われたような気がした。
おもちの表情が、ふっと緩む。
それは、普段の彼女が見せる大人びた微笑みとは違っていた。
もっと柔らかくて、甘くて。
愛おしいものを見つめるような、思わずこちらまで笑顔になってしまう、とろけるような笑み。
そのまま彼女は、エリに向かって片目を閉じた。
ぱちん、と。
悪戯っぽいウインクを飛ばす。
「…………っ!?」
エリの身体が、通形の腕の中で跳ねた。
「きゃあああっ!!おねえちゃん!おねえちゃんがウインクしたぁ!!」
両手をぶんぶんと振り、全身で喜びを表現する。
「ミリオさん!見た!?今の見た!?」
「見た見た!すごかったね、エリちゃん!」
通形も笑顔で応じた。
「おねえちゃん、すっごくきれい!!」
エリはもう、嬉しくてたまらない様子だった。