第16章 雄英文化祭編
「お前、並ぶ気満々じゃねぇか!」
「いや、ほら。緊張をほぐすのも大事だろ?」
「都合のいいこと言ってんじゃねぇ!」
切島も顔を赤くしながら、ちらちらとおもちの様子を窺っていた。
「……いや、でも、確かに。気持ちを切り替えるにはいい方法かもしれねぇな……」
「切島くんまで!?」
緑谷が驚きの声を上げる。
その緑谷自身も、顔が赤い。
彼女が誰かにキスをした。
ただそれだけのことなのに、胸の奥が妙にざわつく。
しかも、相手は耳郎だ。
同性同士の頬へのキスで、特別な意味があるわけではない。そう理解しているはずなのに、どうしてこんなに落ち着かないのだろう。
「……デクくん?」
麗日が顔を覗き込む。
「顔、真っ赤だよ?」
「えっ!?そ、そうかな!?」
「うん。すっごく」
「そ、そんなことないよ!これは、その、会場が暑いから……!」
「まだ舞台袖だよ?」
「……うっ」
緑谷は言葉に詰まった。
その横で、轟が静かに手を挙げた。
「俺も頼めるか?」
「「「ええええ!?」」」
クラスメイトたちが一斉に振り返った。
「轟!?」
「お前まで何言ってんだよ!?」
上鳴と瀬呂がほぼ同時に叫ぶ。
轟はいたって真面目な顔だった。
「緊張を吹き飛ばすおまじないなんだろう?本番前に気持ちを落ち着かせるのは合理的だと思うが」
「いや、合理性の問題じゃねぇだろ!」
瀬呂が頭を抱える。
「……テメェら」
低い声が響いた。
爆豪だった。
彼は手の平からパチパチと小さな爆発を連発する。その額には青筋が浮かんでいた。
「何、ぞろぞろ並んでやがる」
「えっ、だってさ、緊張が吹き飛ぶんだって!」
芦戸が悪びれずに答えた。
「だったら深呼吸でもしてろ!!」
「えーっ!でも、おもちさんのおまじないだよ!?」
「知るか!!」
爆豪の声が舞台袖に響き渡った。
おもちは、そんな彼らを見回しながら、とうとう声を立てて笑った。
「ふふっ……あははっ」
普段の上品な笑い方とは違う、心から面白がっている笑い声。
それを聞いたクラスメイトたちは、一瞬だけ動きを止めた。