第16章 雄英文化祭編
起こさないように、慎重に。
背中が安定するように自分の身体を少しずらし、エリの頭を胸元に預ける。片腕で小さな背中を支え、もう片方の腕で膝の裏を包み込むように抱き直した。
その様子を少し離れた場所から見ていたクラスメイトたちは、思わず顔を見合わせた。
「……なんか、すごい絵面じゃない?」
芦戸が小声で呟く。
「わかる。おもちちゃん、めちゃくちゃ自然に抱っこしてるよね」
葉隠が感心したように続けた。
「子どもの扱いにも慣れてるっつーか」
切島が腕を組んで頷く。
「いや、でもさ……」
上鳴がちらりとおもちを見やった。
いつもは大人びていて、どこか隙がない。何を考えているのか読めないことも多い彼女が、今は眠る少女を抱きしめ、まるで壊れ物を扱うように背中を撫でている。
その表情は、教室で見せるものよりずっと穏やかだった。
「……ああいう顔もするんだな」
誰かがぽつりと零した。
その言葉に、爆豪は黙ったまま視線を向けた。
教室の隅。椅子に座ったおもちは、エリの頭を胸元に抱き寄せ、時折その髪を撫でている。
エリが彼女の袖を握りしめていることにも気づいていた。
無理に離そうとせず、その小さな手ごと包み込むように抱いていることも。
――あいつ、あんな顔で笑うんだな。
先日、屋上で泣いた彼女の顔が脳裏をよぎる。
いつも余裕たっぷりで、何を聞いてもするりとかわしてしまう。自分のことになると、平気な顔をして何もかもひとりで背負おうとするくせに。
今、彼女が見せている笑顔には、いつものような壁がなかった。
ただ、腕の中にいる小さな子どもが愛おしくてたまらない。そんな気持ちが、そのまま表情に滲んでいる。
爆豪は無意識に手を止めた。
「爆豪?」
ドラムの準備をしていた耳郎が、彼の様子に気づいて声をかける。
「……なんでもねぇ」
ぶっきらぼうに返し、スティックを握り直す。
けれど、視線はもう一度だけ、教室の隅へ向かった。