第16章 雄英文化祭編
「……おねえちゃん」
エリが、おもちの胸元から顔を上げる。
「もう、いなくならない?」
その問いかけに、おもちの笑顔がほんの少しだけ揺れた。
この子は、再会を喜ぶと同時に、また失うことを恐れている。
大切な人が突然いなくなる痛みを、幼いながらに知っているから。
おもちは、エリの頬にそっと手を添えた。
「……今は、ここにいるよ」
簡単に約束はできない。
自分には任務がある。
いつまでもそばにいられるとは限らない。
それでも、今この瞬間だけは。
この子の不安を、少しでも取り除いてあげたかった。
「だから、今日はいっぱいお話ししよう?」
エリは、こくりと頷いた。
そして、再び彼女の胸に頬を寄せた。
「……うん」
おもちは、少女の頭を優しく撫でた。
文化祭の準備で賑わっていたロビーに、楽器の音はもう聞こえていなかった。
耳郎たちも、上鳴も、八百万も。
いつの間にか、みんながふたりの姿を見守っていた。
普段、誰に対しても余裕のある笑みを浮かべるおもちが、今はひとりの少女を抱きしめ、心から安堵したような表情をしている。
それは、彼女が雄英で見せるどんな笑顔とも違っていた。
そして、その笑顔を向けられたエリは、ようやく安心できる場所を見つけたように、彼女の胸の中で目を閉じた。
――今だけは、ステラでいてあげよう。
おもちは、腕の中の少女を抱きしめながら、心の中でそっと呟いた。
誰にも明かせない秘密を抱えたままでも。
この子が自分を見つけてくれたことだけは、きっと忘れない。