第16章 雄英文化祭編
おもちが不思議そうにこちらを見ている。
「どうしたの?さっきから、何度か手が止まっているようだけれど」
「止まってねぇ!!」
「そう?何か考え事でもしているのかと思ったわ」
「してねぇっつってんだろ!」
「ふふ。そうなのね」
彼女は疑う様子もなく、にこりと笑った。
その笑顔に、爆豪の心臓が跳ねる。
――だから、そういう顔をすんなっつーの!!
内心で叫びながら、爆豪は乱暴にスティックを握り直した。
「耳!次、頭から合わせんぞ!!」
「はいはい!じゃあ、おもちも準備して!」
「ええ、わかったわ」
おもちはギターを構え直した。
その姿を見て、爆豪は再び視線を奪われた。
彼女の正体を知る前から、気になってはいた。
けれど、今はもう、以前と同じようには見られない。
大人の女性だと知ってしまった。
自分たちよりもはるかに長く、厳しい世界を生きてきた人だと知ってしまった。
その一方で、目の前にいるのは、文化祭のステージを成功させようと一生懸命になっている、一人のクラスメイトだ。
自分が知らなかった彼女の一面が、次々と目の前に現れる。
知れば知るほど、もっと知りたくなる。
そんな自分自身が、ひどく厄介だった。
「……チッ」
爆豪は小さく舌打ちした。
「爆豪、今度は何!?」
「うるせぇ!始めんぞ!!」
ドラムのカウントが響き、演奏が始まる。
力強いリズムに合わせて、上鳴と常闇のギターが重なり、八百万のキーボードが音を彩る。
耳郎がベースを弾きながら歌い、おもちもギターを奏でながら、その音に声を重ねた。
まだ完璧ではない。
音がずれることもあれば、歌い出しのタイミングを間違えることもある。
それでも、演奏を重ねるたびに、少しずつ音がまとまっていく。
そして、間奏。
「――ここ!」
耳郎の合図に合わせ、ほかの楽器が音を抑えた。
爆豪のドラムが前に出る。
ドン、ドドン、ドンッ!
鋭く、力強い音が空気を震わせた。