第16章 雄英文化祭編
「そう!林間合宿のときみたいに、聴いてる人を一気に引き込んでほしい!」
耳郎は目を輝かせた。
「爆豪のドラムで会場を盛り上げて、そこからおもちの歌声で一気に持っていく。絶対にかっこいいと思うんだよね!」
「おおおっ!それ、めちゃくちゃいいじゃん!」
上鳴が興奮したように声を上げた。
「ドラムソロからの生歌ってことだろ?会場、絶対沸くって!」
「ふむ……演奏の緩急を明確にすることで、観客の意識を集中させるわけだな」
常闇も腕を組み、低い声で頷いた。
「静寂の中から放たれる歌声……闇を切り裂く一筋の光のようだ」
「常闇、あんたそういうところ本当にブレないよね」
耳郎が苦笑する。
「でも、悪くないと思いますわ」
八百万も譜面を見ながら微笑んだ。
「キーボードで音を支えながら、歌声が最も美しく響くように調整してみます」
「ありがとう、八百万さん」
おもちは嬉しそうに礼を言った。
その笑顔を見て、爆豪の手が一瞬だけ止まった。
――クソが。
何をやっているのか、自分でもよくわからなかった。
演奏中なのに、どうしても彼女のことが目に入る。
ギターを抱えた姿。
真剣に譜面を読み込む横顔。
うまく弾けたときに、耳郎と顔を見合わせて笑う表情。
普段の彼女は、どこか余裕があって、こちらの考えを見透かしているようなところがある。
公安の人間として何年も危険な現場を経験し、自分たちよりもずっと多くのものを見てきた女性。
そう知ってからは、以前とは違う目で彼女を見るようになった。
彼女は、自分たちより五つも年上なのだ。
二十一歳。
成人していて、実際に社会で働いている。
それなのに、こうして雄英の制服を着て、自分たちと一緒に文化祭の準備をしている。
しかも、時々どこか抜けている。
難しい顔でギターを弾いていたかと思えば、ピックを落として「あら」と首を傾げたり、譜面に集中しすぎて、耳郎に話しかけられるまで周囲の声が聞こえていなかったりする。
そういうところが、妙に可愛らしい。
大人の女性としての落ち着きと、同年代の生徒のように夢中になる無邪気さ。
そのギャップが、どうしようもなく調子を狂わせる。
「……ねぇ爆豪くん?」
ふいに声をかけられ、爆豪ははっと顔を上げた