第15章 死穢八齋會
男は顔をしかめた。
「てめぇ……!」
「あるなら聞いてあげる。ないなら、そこをどきなさい」
声は静かだった。
それなのに、男は反射的に口をつぐんだ。
彼女は微笑んだまま、相手の目を見据えていた。
威圧するために声を荒らげる必要などない。
相手がどこまで踏み込めば危険なのか。それを、言葉と態度だけで理解させればいい。
やがて男は、舌打ちしながら道を開けた。
「……気の強ぇ女だな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
彼女は何事もなかったかのように歩き出した。
その背中を、周囲の構成員たちが目で追っている。
誰もが、彼女をただの新入りとは思わなくなっていた。
廃倉庫に足を踏み入れた瞬間、彼女は空気の違いを感じ取った。
錆びついた鉄骨。剥き出しのコンクリート。天井から垂れ下がる古びた照明が、薄暗い室内を頼りなく照らしている。
案内役の構成員に続き、彼女は音もなく歩を進めた。
「……ここか」
低く呟き、周囲を見渡す。
倉庫の奥には、すでに数人の人影があった。
中心に立つのは、青白い肌に、落ち着きのない指先を首元へ這わせる男――死柄木弔。
その周囲には、爬虫類のような顔立ちのスピナー、血の匂いに浮かれるような笑みを浮かべたトガヒミコ、陽気さと不気味さが入り混じったトゥワイス。壁際には、炎を思わせる青い髪の荼毘が寄りかかり、シルクハットを被ったミスターコンプレスが、芝居がかった仕草で一礼する。大柄なマグネと、黒い霧に包まれた黒霧もいた。
ヴィラン連合。
世間を騒がせている犯罪集団の中核が、そこに揃っていた。
彼女は表情を変えず、一人ひとりの立ち位置を確認する。
死柄木が中心。黒霧は退路を確保できる位置。荼毘は壁際から全体を見渡し、スピナーは死柄木の近くに控えている。
そして――誰もが、相手を信用していない。
「……面倒な連中ね」
小さく呟いた声は、隣の構成員にさえ届かなかった。
彼女は壁際に立ち、腕を組んだ。
あくまでも、治崎の用心棒。
余計な口は挟まない。必要な場面でのみ動く。それが、今の彼女に与えられた役割だった。