第15章 死穢八齋會
その夜
鏡の前に座った彼女は、普段の自分とはまるで違う顔を作り上げていた。
目元を強調するアイメイク。 艶やかな口紅。 輪郭を際立たせる、計算された陰影。
長い黒髪は丁寧にまとめ上げ、頭の上から金髪のボブウィッグをかぶせる。
毛先を整え、前髪の位置を調整する。
鏡の中にいるのは、雄英高校一年A組の生徒ではなかった。
黒のジャケットに、白いシャツ。
身体のラインに沿ったミニ丈のタイトスカート。脚にはガーターベルト付きのタイツを合わせ、足元には表面が黒いエナメル素材で、靴底だけが鮮やかな赤色をしたハイヒールを履いた。
仕上げに、香水をひとつ吹き掛ける。
甘さの奥に、どこか冷たい印象を残す香りだった。
彼女は鏡の中の自分を、じっと見つめた。
華やかな化粧。 金髪のボブ。 隙のない身のこなし。
一見すれば、裏社会に出入りする女極道。
あるいは、誰かの側近として、危険な場所に立つことを許された女。
普段の彼女からは、想像もつかない姿だった。
それでも、その装いは彼女の実年齢に不思議なほどよく馴染んでいた。
雄英では大人びた美貌を持つ学生として見られている彼女も、本来は二十一歳の女性だ。
今夜の彼女には、学生らしい柔らかさがなかった。
洗練され、艶やかで、近寄りがたい。
その美しさの奥に、相手を冷静に見極める観察眼が潜んでいる。
彼女は口元に、薄い笑みを浮かべてみた。
「……よし」
声の調子も変える。
普段の穏やかな声より、少し低く、気怠げに。
相手に媚びるわけではない。 けれど、露骨に警戒させることもない。
裏社会の人間が警戒するのは、力のある者だけではない。
何を考えているのか分からない者。 どこに繋がっているのか分からない者。 そして、簡単には手を出せないと思わせる者。
彼女は、そのどれにもなれるよう、自分の表情を整えた。