第15章 死穢八齋會
おもちが本免許を手にしてから数日後。
雄英高校では、仮免試験に合格した生徒たちが、これからのヒーロー活動や授業について賑やかに話していた。
「三か月後には爆豪と轟も補習を終えてるだろうし、またみんなで活動できるな!」
切島が明るく言うと、上鳴が頷いた。
「だな! それにしても、爆豪の寮内清掃三日間って、相澤先生も容赦ねぇよなぁ」
「自業自得でしょ。夜中に喧嘩なんかするから」
耳郎が呆れたように返す。
そんな会話を、彼女は穏やかな笑顔で聞いていた。
いつもと変わらない朝。 いつもと変わらない教室。 いつもと変わらない仲間たち。
けれど、彼女の携帯には、誰にも見せていない一通のメッセージが届いていた。
――本日、放課後。指定場所へ出頭せよ。
差出人は、公安。
彼女は画面を一瞥し、何事もなかったかのように携帯をしまった。
本免許を手にして何とも言えない感情に浸る間もなく、彼女は再び、もう一つの世界へ呼び戻されようとしていた。
*
指定された建物は、街の喧騒から切り離されたような場所にあった。
窓のない会議室。 重たい扉。 机の上に置かれた、数枚の資料。
彼女を待っていた上司は、挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「今回の任務は、死穢八斎會への潜入だ」
彼女の表情は変わらなかった。
「対象は、組織の若頭、治崎廻。通称、オーバーホール。現在、ヴィラン連合との接触が疑われている」
机の上に資料が滑らされる。
死穢八斎會の構成。 治崎の経歴。 組織内部の人間関係。 そして、ヴィラン連合に関する断片的な情報。
彼女は一枚ずつ目を通していった。
「君には、組織の構成員として内部に入り、治崎の動向とヴィラン連合との関係を探ってもらう」
「所属上の立場は?」
「新入りの用心棒だ。表向きは、戦闘能力を買われて雇われた人間ということにする。過去の経歴は、こちらで用意したものを使え」
彼女は資料から目を上げた。
「潜入期間は?」
「期限は設けない。情報の収集状況によって判断する」
つまり、いつ終わるか分からない任務。
雄英での学生生活を送りながら、裏では死穢八斎會の一員として振る舞う。
それが、これから彼女に求められる生活だった。