第14章 気付き始めた恋心
おもちは携帯電話を耳から離し、しばらく画面を見つめていた。
自分にしかできない仕事。
それは、裏を返せば、自分以外に任せられる人間がいないということでもある。
彼女はゆっくりと息を吐いた。
正直なところ、迷いはあった。
自分の個性について、分かっていないことが多すぎる。
龍は何者なのか。
なぜ自分の中に存在するのか。
どうして、あれほどの力を持ちながら、自分の意思とは関係なく傷を癒やすことがあるのか。
そして、いつか本当に自分の制御を離れたとき、自分はどうなってしまうのか。
考えれば考えるほど、答えの出ない疑問ばかりが浮かんでくる。
窓の外へ視線を向ける。
雄英には、未来のヒーローを目指す生徒たちがいる。
彼らはまだ知らない。
自分たちが通う学校のすぐ外側で、どれほど多くの思惑が交錯しているのかを。
誰かが裏側で動かなければ、守れないものがある。
表舞台で戦うヒーローたちが、その力を存分に発揮できるように。
そのために自分の力が必要なのだとしたら。
「……やるしかない、か」
小さくつぶやく。
揺らぎかけた信念を、もう一度、自分の中へ押し込める。
納得できたわけではない。
不安が消えたわけでもない。
それでも、今の自分にできることをする。
彼女はそう決めた。
そして、携帯電話を机の上に置いた、その直後。
「……過重労働はしたくないんだけど……」
誰もいない部屋に、ぼそりと本音がこぼれた。
公安のエリートとして、数々の修羅場をくぐり抜けてきた女。
秘密を抱え、龍を宿し、ヒーロー社会の裏側を支える存在。
どれを取っても、荷が重すぎることには変わりなかった。