第7章 想い…
「……改めまして」
実弥は居住まいを正した。
先ほど蛍に怒鳴られた時よりも、どこか緊張した面持ちで鉄珍へ向き直る。
「風柱、不死川実弥です。斗和さんとは……その、付き合ってます」
最後の言葉だけ妙に小さくなり、耳が赤くなる。
鉄珍は目を細め、穏やかに笑った。
「うむ。先ほどから聞いておるよ」
「……そうですかァ」
実弥は咳払いし、拳を握り直す。
「斗和には世話になってます。これからも……俺が傍にいます」
「ほう」
鉄珍は斗和を見る。
「ならば、安心じゃな」
斗和が少し照れたように笑う。
「鉄珍さま、大袈裟だよ」
「いやいや。お前がここを出てから、随分と長かったからのう」
その瞬間、斗和の笑顔が僅かに止まった。
実弥の目が、斗和へ向く。
「……あの日のことじゃ」
鉄珍は静かに続ける。
「お前が里を出た朝。刀だけを持って、夜明け前に一人で出ていった」
斗和の指先が着物を握る。
「蛍が呼び止めても、振り返らなかった」
「…………」
「そして、お前はこう言った」
鉄珍が一拍置く。
「『ここにいたら、また誰かを傷つける』とな」
実弥の眉間に皺が寄った。
「……誰かを?」
斗和は俯いたまま答えない。
鉄珍はそんな斗和を見つめる。
「お前が置いていったものは、家族との縁だけではない」
「……何を置いていったんだァ?」
実弥の声が低くなる。
鉄珍は首を横に振った。
「それは、斗和自身が話すことじゃ」
そして、意味深く付け加える。
「ただ――あの日から蛍は、ずっと同じものを残しておる」
「……?」
「斗和がいつ帰ってきてもいいようにな」
斗和の瞳が揺れた。
実弥は何も聞かなかった。
ただ、震える斗和の手をそっと握る。
「……帰っていいんじゃねェかァ」
その声に、斗和は小さく息を吐いた。
「……考えとく」
鉄珍は静かに微笑んだ。
「それでよい。帰るかどうかを決めるのは、お前自身じゃ」