第6章 昔話をしてみようか…
「風柱、不死川実弥です。斗和さんとは、お付き合いさせてもらってます!」
実弥は背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。
普段なら鬼を前にしても揺らがない男が、今日は妙に肩へ力が入っている。握った拳も、わずかに震えていた。
「…………は?」
蛍の声に、実弥の喉が小さく鳴る。
「鬼殺隊の柱だァ? ふざけんじゃねェ!!」
蛍は斗和の腕を掴むと、自分の背後へ引き寄せた。
「兄さん!?」
「テメェみてェな男に斗和を任せられるか!!」
「……っ」
実弥の眉が跳ねる。
思わず一歩踏み出しかけるが、斗和が蛍の背中から顔を覗かせているのを見て、ぴたりと止まった。
「斗和を幸せにできんのかァ!?!?」
蛍が胸ぐらを掴む。
「……できる」
声は低い。
だが、いつものような余裕はない。
実弥は蛍の手首を振り払うこともせず、じっと目を合わせた。
「……俺が、そうする」
「口だけじゃねェだろうなァ!?」
蛍が実弥を突き飛ばす。
数歩よろめいた実弥は、すぐに踏みとどまった。
「斗和が無茶すりゃ止める。自分を粗末にしやがったら、俺が叱る」
拳を握り直す。
「それでも足りねェなら……これから見ててくれ」
そこで一度言葉に詰まり、視線が僅かに泳ぐ。
「……俺が、斗和を大事にするところを」
耳が赤くなる。
蛍は腕を組み、じろりと睨んだ。
「泣かせたら承知しねェぞ」
「……あァ」
実弥は小さく頷いた。
すると背後から斗和が顔を出す。
「実弥、緊張してる?」
「してねェ!!」
即答。
だが、耳は真っ赤だった。
蛍が鼻を鳴らす。
「……まあ、そこまで必死なら見てやる」
実弥は小さく息を吐き、胸元を整える。
――鬼より怖ェじゃねェか、この兄貴。
そんな本音だけは、絶対に口にしなかった。