第3章 守りたいもの…
「斗和!」
実弥は倒れた斗和を抱き上げると、血相を変えて周囲を振り返った。
「隠ィ! こいつを蝶屋敷へ運べェ! 今すぐだァ!」
普段の実弥からは想像もつかない切迫した声だった。
「は、はい!」
隠が慌てて斗和を受け取る。
「絶対に死なせんなァ!」
その場にいた隊士たちは息を呑んだ。
――あの不死川が、あんな顔をするなんて。
斗和が蝶屋敷へ運ばれたという話は、瞬く間に隊士たちの間へ広がっていった。
「斗和さんが倒れたらしい」
「不死川さんが付き添ってるって……」
「かなり酷い状態なんじゃ……」
噂は次々と形を変えながら広がっていく。
一方、蝶屋敷。
診察を終えたしのぶの元へ、実弥が駆け込んだ。
「胡蝶ォ! 斗和はどうなってやがる!」
「落ち着いてください」
「落ち着いてられっかァ!」
しのぶは静かに息を吐く。
「命に別状はありません。ただ……かなり酷い貧血を起こしています」
「貧血だァ?」
「はい」
しのぶは斗和の傷口を見ながら説明した。
「斗和さんは今回、自分の血に含まれる毒を利用して鬼の再生を阻害しました。その結果、普段以上に血を流しています」
「……それだけかァ?」
「問題は、その前に受けた傷です」
しのぶの表情が曇る。
「肩の傷から、まだ血が止まっていなかったんです。それなのに、さらに血を流す戦い方をした」
実弥の顔が強張る。
「つまり……」
「失った血が多すぎたんです。身体が限界を迎えて、意識を失ったのでしょう」
「……馬鹿野郎がァ」
実弥は拳を握り締める。
血に頼るほど強くなる。
だがその力は、斗和自身の命を削っていた。
「……あいつ、分かっててやってやがったのか」
「おそらく」
しのぶは淡々と答える。
「だからこそ、私は少し気になっています」
「何がだァ」
「斗和さんが、そこまでして守ろうとしているものが何なのか――です」
実弥は何も答えなかった。
ただ、眠る斗和を見つめながら思う。
――また一人で、全部背負いやがって。
その怒りと不安が、胸の奥で渦を巻いていた。