第2章 誰も知らない秘密
数日後、斗和と実弥は鬼の討伐任務に赴いていた。
「――いたぞォ!」
森の奥から現れた三体の鬼へ、二人は同時に斬り込む。
斗和は鬼の爪をかわし、刀を振り抜いた。
「酒の呼吸――壱ノ型!」
腕を斬り落とされた鬼が叫ぶ。しかし、再生しようとした腕が異様に遅い。
「な、何だ……これ……!」
鬼の身体が苦しげに震える。
斗和は目を細めた。
(……効いてる)
斗和の血には、長年飲み続けた藤の花の毒が染みついている。後天的に変質したその血を浴びた鬼は、身体を蝕まれ、再生能力まで鈍らせてしまう。
「テメェ……普通の人間じゃねぇな!」
「さあね」
斗和は笑い、わざと浅く腕を傷つけた。
飛び散った血が鬼の顔へ付着した瞬間――
「ぐ、あああああッ!」
鬼が絶叫した。
全身が痙攣し、皮膚に紫色の斑点が浮かぶ。再生しかけた傷口まで崩れ始めた。
斗和は一瞬も迷わず刀を振り下ろす。
「――終わり」
鬼の首が落ち、灰となって消えていく。
静寂の中、実弥は斗和の腕から流れる血を見つめた。
「……おい」
「ん?」
「今の、何だァ?」
「何って?」
「テメェの血だァ」
斗和の笑顔が一瞬だけ固まる。
「……ちょっと珍しい体質なのよ」
「珍しい体質だァ?」
「昔から酒飲みだったからね」
「それが何の関係あんだァ」
「さあ?」
斗和は笑って誤魔化し、傷口を隠す。
実弥は納得していないようだったが、それ以上は追及しなかった。
「……とにかく、その傷を手当てしろォ」
「はいはい」
背を向けた斗和の表情から笑みが消える。
藤の毒を酒で薄め、毎日飲み続けたことで得た、この異常な血。
その秘密を、斗和は誰にも話していない。
「……まだ、言えない」
小さく呟く斗和。
その背中を見つめながら、実弥は眉を寄せた。
「……何隠してやがるんだァ、斗和」