第33章 指輪の存在
零が息を呑んだ気配がした。
「何度も思い出してたの。零と過ごした時間を…数ヶ月間の色んな出来事を…。
次第に、こんなにも幸せだったんだから、もう十分だって。
零は、私にいっぱい幸せをくれたから……一生分の幸せをもらえたことに感謝しようって自分を納得させるようになっていって…
幸せな思い出だけに浸って、着けられることがなかった指輪は忘れようとしてた…。
それで、指輪を見ると、どうしても……」
零は、黙ったまましばらく動かなかった。
やがて、指輪をケースに戻して、テーブルにそっとそれを置き、私の前に膝をついた。
「……こっちを見て、」
言われるままに顔を上げると、青い瞳がまっすぐに私を見つめていた。
「僕が目を覚まさない間……
そんなふうに思っていたんだな」
「ははは…、これだと目覚めるのを信じてないも同然だね…」
「再会してからの数ヶ月間が幸せだったから、それで十分だと?」
私は、答えられなかった。
零は、目を伏せた。
それから、私の震える手を両手で包み込んだ。
「……ごめんな」
「え…?」
「を、ひとりにして」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
「謝らないで…。零は何も悪くない。
私が弱すぎて…、これからも、零の仕事や怪我を心配するたびにこんなふうになってたら、困らせちゃうよね。
零の妻失格かも。ふふっ。」
「が……、僕との思い出だけを頼りに、これからの人生を生きようとしていたなんて……
そこまで不安にさせていたなんて考えもしなかった。
僕は、短い期間に一生分の幸せを詰め込もうと思って、を愛してきたわけじゃない。
そんな思いをさせるために、結婚したんじゃない。」
零は、私の手を少しだけ強く握った。