第7章 間章『第三者の観測』前編
「お二人とも、そのくらいにしておいた方がいいですよ」
「栗林さん」
湯川が振り返る。
「何でしょう?」
「栗林さんまで何を言っているんです」
「僕は何も言ってませんよ」
「…………」
「ただ」
栗林は資料を揃えながら淡々と言った。
「星宮さんが来るようになってから、先生が覚えたことは砂糖の数だけじゃありませんけどね」
「…………」
草薙がゆっくり栗林を見る。
内海も栗林を見る。
「栗林さん」
湯川の声が少しだけ低くなる。
「何でしょう?」
「先ほどお願いした資料は?」
「ありますよ。ここに」
「そうですか」
「はい」
「…………」
「…………」
内海の目が輝いた。
「栗林さん」
「何でしょう?」
「あとで詳しく!!」
「内海君」
「はい?」
「事件の話をしろ」
「まだ何も聞いてませんけど?」
「聞こうとしていただろう」
「ふふっ」
「笑うな」
「すみません」
草薙が肩を竦める。
「しかし、珍しいな」
「何がだ?」
「お前が自分の研究と関係ないことを、そんなに覚えてるの」
「人間の記憶は、研究対象だけを選択的に保存するわけじゃない」
「そりゃそうだけどさ」
「なら何だ?」
「いや」
草薙が少し笑う。
「別に」
「さっきからそればかりだな」
「じゃあ一個だけ聞く」
「何だ?」
「四時半」
「…………」
「お前、待つの?」
「…………」