第6章 『変数る』
「先生」
「何だ?」
「友達になった記念に、一つお願いがあります」
「断る」
「まだ何も言ってない!!」
火曜日、午後二時五十分。
いつもの場所、
いつものベンチに座った湯川先生は、
本から顔すら上げなかった。
「内容を聞いてから断ってくださいよ」
「君がそういう前置きをするときは、大抵面倒なことだ」
「まだ友達になって一週間くらいなのに、私の何を知ってるんですか」
「少なくとも、演奏については数週間観測している」
「観測って言うな」
最近、
先生に対する遠慮が完全になくなってきた気がする。
「で、お願いです」
「何だ?」
「今度、演奏会に来てください」
本のページをめくる手が止まった。
「演奏会?」
「オーケストラ部の演奏会です」
「ああ」
「来月なんですけど」
「…………」
先生が本から顔を上げる。
「僕がか?」
「先生以外に誰がいるんですか」
「何故?」
「友達だから」
「…………」
「今、面倒くさいと思いました?」
「いや」
「じゃあ来てくれます?」
「予定を確認しないと分からない」
「お」
「何だ?」
「即答で断らなかった」
「予定が空いているか確認すると言っただけだ」
「はいはい」
「その返事はやめろ」
思わず笑う。
「詳細、あとで渡しますね」
「ああ」
それだけだった。
来てくれるかもしれない。
そう思っただけで、
少しだけ嬉しかった。