第2章 『観測る』
──木曜日。
午後二時四十七分。
開け放たれた窓から、フルートの音が聞こえてきた。
「…………」
湯川は顔を上げた。
数秒だけ耳を傾け、また手元の論文へ視線を落とす。
先日、彼女が練習していた新しい曲だった。
ページをめくる、ペンを走らせる。
やがて、問題の箇所が近づく。
「…………」
ペンが止まった。
フルートの音は続く。
あの日、何度も途切れていた場所。
旋律がそこへ差し掛かり──、
そのまま。
何事もなかったように、通り過ぎた。
「……できたか」
小さく呟く。
口元が、ほんの僅かに緩んだ。
そして再び論文へ視線を落とす。
もちろん、本人は気づいていなかった。
彼女が何曜日にここへ来るのかを覚えていることにも。
聞こえない日に静かだと感じたことにも。
そして──、
星宮の奏でる音が聞こえてくるのを。
いつの間にか自分が待つようになっていたことにも。