第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
「お願いだから来ないで!! 触れたら危ない……私、自分でもこの力を止められないの! あなたまで傷つけちゃう……っ!」
暴風の刃と鋭い蔓が彼女を守ろうと、あるいは拒絶するように一斉に五条へ襲いかかる。
「来ないでって言われて『はいそうですか』って引き返すような人間だと思うか?」
五条は足を止めることすらしなかった。
襲いかかる風や木々の刃も、すべて五条の身体の数センチ手前に見えない壁があるかのように弾かれ消え去っていく。
「え……? なんで……っ?」
傷つくどころか微風すら届いていないその異常な光景に、は涙を浮かべたまま呆然と固まった。
目の前まで歩み寄ってきた五条はひざをついてと目線を合わせると、サングラスを少しずらしてニッと悪戯っぽく笑った。
「言っただろ? 俺の術式はあらゆるものを寄せ付けねぇんだよ」
「……っ」
「どんな攻撃もお前の嵐も、俺には絶対に届かない。だから——大丈夫」
どこまでも青い彼の瞳が真っ直ぐに自分だけを映している。
「傷つく心配なんかしないで、全部俺に任せとけ」
嵐の最中とは思えないほど穏やかで、絶対的な自信に満ちたその言葉と笑みに、の張り詰めていた心がゆっくりと解きほぐされていく。
「ほら、おいで」
そう言って、五条は大きな掌をへ差し出すと、は涙で濡れた瞳でその手を見つめ、恐る恐る小さな手を重ねた。
強い力で引かれ、気づけば彼女の身体は五条の腕の中へと包み込まれていた。
「……っ!?」
「もう大丈夫だ」
頭上から降ってくる低く優しい声。
五条はの頭にそっと手を置き、子どもの髪を撫でつけるようにポンポンと優しくあやした。
「一人で抱え込んで泣かなくていい。お前はもう、誰も傷つけなくていいんだ」
頭の上に伝わる掌の熱と、胸に届く力強い鼓動。
母が死んでからずっとひとりぼっちで冷え切っていた世界に、久々に溢れる人の温もりだった。
そのぬくもりが胸の奥まで染み渡り、の心を支配していた激しい感情の渦が少しずつ静まり返っていく。
それに呼応するように島を覆っていた猛烈な暴風が弱まり、黒雲の隙間から柔らかな太陽の光が射し込み始めた。