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鬼道有人の初恋

第1章 第一話




 鬼道有人がを見初めたのは、帝国学園に入学してまだ間もない頃のことだった。

 赤いマントを翻し彼は道を行く。その姿を見ると生徒たちは彼に道を譲り頭を垂れる。彼の名を囁き、彼の功績を称え賞賛した。

 こういう扱いを求めているわけではない。だがこの居振舞いは周囲が鬼道に期待する形なのだ。それを飲み込んで鬼道は努めて厳格に前を見据える。

 鬼道有人は一年生ながらに帝国学園の主体とも呼べるサッカー部のキャプテンとして部をまとめ、入学テストでももちろん頂点の座に君臨していた。鬼道財閥の御曹司であり家柄も申し分ない。事実上、帝国を統べる王になった彼よりも優るものは誰もいなかった。

 しかし彼はそれを驕ったことは無い。鬼道有人は聡明で、見るべきものをより深く見てより多きを学び取れる素直な少年であった。

 与えられるすべての期待に応え、鬼道は彼が彼であるためにあるべき姿を完璧に形作る。彼の生活は使命と責任、そして誇りによって成り立っていた。

 だからこそ、彼にとってとの出会いは鮮烈だった。まるで桜の花びらを空へと舞い上げる春疾風のごとく、彼女は鬼道の心を一瞬で搔き乱した。

 ある日のこと、慣れない学校生活を過ごす中で鬼道は彼女の姿を目に留めた。

 それはサッカー部の練習を終え、廊下を歩いていた時だった。揺れる黒髪が視界の端に映って、鬼道は何気なく活気の失せたグラウンドに視線をやった。

 黒髪の持ち主は華奢な少女だった。タンクトップにハーフパンツのトレーニングウェア姿からおそらくは陸上部の生徒だということを推察する。

 彼女は険しい面持ちで視線を落として佇んでいた。陰鬱で暗い雰囲気があったがそれはあの重々しい黒髪のせいか。

 ぼんやりと意図もなく寄せた鬼道の視界の中、流れるような動作で彼女はグラウンドのコースでクラウチングスタートの構えを取る。

 部活の光景だなんてありふれているはずなのに、鬼道はどうしてかその姿に足を止めて見入ってしまった。遠くから聞こえる電子タイマーの音に合わせ、彼女は強く地面を蹴る。

「……っ」
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