第12章 全て元通り
店の奥から案内されてきた悟の姿を見て、一瞬目を見開く。
黒のハイネックに、細身のスラックス。
羽織っていた黒いロングコートを店員に預けると、白い髪を軽く掻き上げた。
目元を覆っているのも、いつもの目隠しではなく黒いサングラスだった。
全身を黒で統一した姿に、白い髪だけが柔らかな照明の中でやけに鮮明に映る。
「…………」
昴は悟を見ながら、思わず息を呑んだ。
悟は椿の後ろに立っている昴を一瞬見たが、すぐに視線を外した。
悟が来た。ただそれだけのことなのに、毎年空いていた正面の席に向かって歩いてくる悟から、椿は目を逸らすことが出来なかった。
悟が椅子に座ると、店員が白いナプキンを膝に掛けた。
16歳の頃から一度も誕生日に顔を見せなかった婚約者が、当たり前のように椿の前に居る。
その太々しい態度に椿は眉を顰めた。
そんな椿の表情に気が付いているはずなのに、悟は何事もないように会話を始めた。
「…毎年僕を待っていた?」
悟はチラリと時計を見ながら聞いた、時間は30分ほど過ぎているのに、テーブルには食前酒すら用意されていない。
「…いいえ。貴方を待ったのは初めてよ」